大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和54年(家)1582号 審判 1979年4月10日

申立人 小山幸夫

被相続人 小山浅夫

主文

被相続人小山浅夫の相続財産である別紙目録記載の物件を申立人に分与する。

理由

一  申立人は主文同旨の審判を求めるものであるところ、本件ならびに当裁判所昭和五三年(家)第三二七四号相続財産管理人選任申立事件および同昭和五四年(家)第二六九五号相続人捜索公告申立事件の各記録によれば、次の事実を認めることができる。

1  被相続人は父小山一之助、母ミツの間に長男として出生し、父一之助所有の別紙目録記載の土地、家屋に父母と居住していたものであり、昭和一二年七月二二日父一之助が死亡したので、家督相続により、上記土地、家屋を取得した。

2  亡父一之助は妻ミツが明治三四年三月二五日死亡したので、明治四二年四月二八日カヅ(明治一一年一二月二六日生)と再婚した。当時被相続人は既に二四歳になつていたが、生来精神薄弱者であつて生活能力を全く欠き父一之助と同居していたので、上記カヅは夫一之助が生存中は同人とともに、同人が上記の日に死亡したのちは独力で、上記土地、家屋に被相続人と同居し、全く実母子と同様に被相続人の生活全般の面倒をみてきた。上記カヅと亡一之助との間には子はなかつた。

3  被相続人は、上記の如き生活を続けた末、婚姻をなし子をなすことなく昭和二三年八月九日死亡したので、上記カヅはその葬儀をとり行い、その後も亡夫一之助のと合せてその法要をはじめ祭祀一切をとり行つてきた。

4  また上記カヅは、被相続人の死亡が新民法施行直後であつたため税務署まで誤つて同女に対し相続課税価格決定の通知をなしたことなどから、旧民法により自己が被相続人所有の上記土地、家屋を相続したものと信じ、相続税を納付するとともに、以来これを自己の物として居住して管理、使用し、租税も納付してきた。

5  申立人は昭和三〇年ころから知人の紹介で上記カヅ宅に下宿し、同所から大阪市福島区の勤務先会社に通勤するようになつた。上記カヅは老令で身寄りもなかつたことから、昭和三一年一一月二一日遠緑の小山大助(昭和六年四月五日生)と養子縁組届をなしたが、同人とは折り合いが悪く同居もしないまま昭和三三年二月二五日協議離緑の届出をなした。以来上記カヅは申立人を頼りにし養子縁組を望むようになり、申立人としても既に三年間同居し家族同様の生活をしてきて互いに気心が知れていたので、身内の反対はあつたがこれに応じ、昭和三三年七月二二日養子縁組の届出をなした。以来申立人は上記カヅの生活費を全額負担し、昭和三八年三月八日に妻由紀子と結婚後も夫婦とも同女と同居し、老衰した同女の監護に努めてきた。

6  上記カヅは昭和三九年一二月二〇日八五歳で死亡したので、申立人はその葬式一切をとり行うとともに、以来上記一之助、被相続人、カヅの法要をはじめ祭祀一切をとり行つて現在に至つている。

また上記のように上記カヅが別紙目録記載の土地、家屋を自己が相続したものと信じていたことから、申立人も上記カヅ死亡によりこれを単独相続したものと信じていたので、引き続きこれに居住するとともに、固定資産税を納入するほか、昭和四七年には大改築をするなど自己のものとして管理、使用してきた。

7  申立人は昭和五二年に勤務先を退職し、自ら新会社を設立したが、その際上記土地、家屋を自己名義に相続登記をしようとして、初めて上記カヅが被相続人よりこれを相続していないことを知つた。

8  被相続人が、昭和二三年八月九日に死亡したことにより、上記土地、家屋について開始していた新民法による相続については、戸籍上相続人の存否が明らかでなかつたので、利害関係人である申立人から昭和五三年一一月二八日相続財産管理人選任の申立がなされ(上記第三二七四号事件)、同五四年三月二七日弁護士○○○○を相続財産管理人に選任する旨の審判がなされた。

9  引き続き同年四月六日当裁判所による上記管理人選任の公告、同年六月一三日上記管理人の相続債権者、受遺者に対する請求申出の催告、同年九月二六日同管理人の相続人捜索公告の申立(上記第二六九五号事件)、同年一〇月一九日これに対する当裁判所の期間を昭和五五年四月二八日までとする相続人の権利主張催告の公告、と民法九五二条、九五七条、九五八条に定められた一連の手続がなされた。

10  上記の期間内に相続債権者、受遺者および相続権を主張する者は全くなく、民法九五八条の三所定の期間内である昭和五五年五月七日申立人から本件分与の申立がなされた。

二  上記の事実関係によれば、被相続人の死亡時に上記カヅが特別縁故者として本件土地、家屋の分与を申し立てていたならば、これが認容されたであろうことは疑いのないところであり、これが認容されていれば上記カヅの死亡によりその養子である申立人が本件土地、家屋を相続することができた筈である。そして上記カヅがその申立をしなかつたのは、自己が被相続人を相続したと信じたためであり、当時税務署から同女に対し被相続人の相続につき相続税の通知をなしたことがそう信じた原因になつていることは明らかであるから、同女が上記申立をしなかつたことにつき、落度があつたとみるのは妥当ではないというべきである。また申立人は被相続人の祭祀をとり行つており、さらに申立人は上記カヅの死亡後一〇年余自己の物と信じて本件土地、家屋を占有使用しており、上記カヅも被相続人死亡後一六年余同様自己の物と信じて本件土地、家屋を占有使用してきたものである。

三  そうすると申立人は上記のような意味において、なお民法九五八条の三、一項にいう「被相続人に特別の緑故があつた者」に該当し、かつ上記の事実関係によれば、相続財産である本件土地、家屋を全部分与するのが相当というべきであるから、これを求める申立人の本件申立はこれを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山崎杲)

別紙目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例